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治山施設の状況調査について

はじめに

我が国は国土の約7割を占める森林と多雨な気候により豊かな水資源の恩恵を受けている。一方で、地球温暖化による気候変動に起因すると考えられている異常気象は、近年、世界各地に大きな影響を与えており、我が国においても集中豪雨などに起因する気象災害が増加しつつある。

山地災害による被害が多い理由としては、平野の少ない地勢であるゆえに、都市近郊などでは山地を切り開いた宅地が多く、農村部では平地を耕作地とし集落は山際に密集していることが挙げられる。

このような状況において、山地に起因する災害の未然防止や災害復旧を目的とした「治山施設」は都市近郊~山間僻地にいたるまで多数配置されている。

しかし、これらの施設は設置されて以来数十年放置されたままの状態のものが殆どであることや、設置場所が人目にふれない山中であることが多く、施設の破損や老朽化などによる施設の機能不全について確認がなされにくい状況であると考える。

当協会では、「治山施設」の破損・老朽の状況調査結果をもとに、施設を設置した地域の気象や土質等の自然条件に起因する施設の破損状況について、とりまとめを行い「治山施設」の維持管理や施設修繕を行う上で必要とされる耐久年数を模索し、効率的な施設管理の推進を図り、もって山地災害の抑制に寄与する取り組みを行う。

1.調査について

治山施設を大別すると以下のカテゴリーに分けられる。

  1. 渓流箇所における土石流抑制や土砂流出防備等を目的とする「渓間工」
  2. 山地斜面の崩壊抑止や植生による森林機能回復を目的とする「山腹工」
  3. 山地斜面からの落石を抑制する「落石対策工」

これらの施設において、木製構造物などのように最終的には自然に帰化することを目的する構造物以外は概ね「コンクリート」や「鋼材」によって構成されていることが多いことから、コンクリート構造物、鋼製構造物の外的変状を主体とする調査を行う。

1-1.コンクリート構造物の調査概要

●構造物について

構造物を形成するコンクリートは、長期にわたってセメントの水和反応に代表される化学反応が進行しており、その反応のプロセスと反応生成物は、コンクリート中に含まれる化学物質の種類・量、外部から侵入する化学物質の種類・量、および環境条件などの影響を受ける。

それは、コンクリートが連続した微細な空隙を有する多孔質物質であり、この空隙を通って気体(酸素,二酸化炭素など)、イオン(塩化物イオン・アルカリ金属イオン・硫酸イオンなど)水分などの浸透や移動が生じるためである。

その結果、構造体に作用する外部・内部の応力に対し所定の強度が低下することによりクラック等が発生する。また、コンクリートの劣化現象には、塩害、中性化、化学的侵食、アルカリ骨材反応などの化学的なものと、凍害・すりへり作用などの物理的なものがある。

●調査概要

構造物に要求される力学的ならびに機能的な性能に影響が大きいとされる「気象作用」・「物理的摩耗作用」・「その他の劣化作用」について調査を行う。

ア) 気象作用
  1. 気温(平均気温、最大・最低気温)
  2. 雨量(年間雨量、最大・最低雨量)
    • ※構造物の凍害による破損を考慮
    • ※流水の有無と渓流の荒廃状況を考慮
イ) 物理的摩擦作用
  1. 土質(周辺を構成する基岩や、石礫径)
  2. 安定状況(土留工等の滑動や転倒の兆候)
  3. 破損の状態(クラックや貯水ダム等の漏水等)
    • ※放水路のすり減りや破損及び安定勾配を考慮
    • ※堤底部(水叩き)の浸食や破損の状況を考慮
    • ※土留背面の勾配や土質
    • ※クラックの要因特定(外的衝撃か骨材反応等の化学的作用かなど)
ウ) その他の劣化作用
  1. 塩害等(海岸地域や工場排水等の流入等の有無)
    • ※塩分や工業排水等が構造物内に浸透することによる化学作用を考慮

※印:調査目的

1-2.鋼製構造物の調査概要

●構造物について

鋼材を使用する構造物は、鋼材のみで形成される場合とコンクリート構造物との併用である場合にわけられるが、どちらも落石対策工として設置されるケースが多い。構成材料である鉄鋼は水分と酸素と結合し酸化反応することで腐食(アノード反応)が生じ部材の強度低下が発生する。そのため鋼材の表面に防腐処理(メッキ)を施して腐食対策を施している。しかし、一般的な防腐処理では塩害(塩化物イオンによる侵入)に対し耐性が低いため腐食の発生が起きやすい。また、コンクリート中の鋼材については、コンクリートの中性化に伴う内部ペーハー(pH)の酸化や塩害による不動被膜の損傷によって腐食を生じる。腐食に際し鋼材体積は約2.5倍まで増加するため、体積膨張によるひび割れや剥離による構造体の破壊を生じる。鋼材の腐食による劣化の進捗は、腐食初期から一定期間は比例的に強度が低下するが、その後は比較的短期に強度低下が進み破断するといった特性を持つ。

●調査概要

構造物に要求される力学的ならびに機能的な性能に影響が大きいとされる「気象作用」・「物理的摩耗作用」・「その他の劣化作用」について調査を行う。

ア) 気象作用
  1. 気温(平均気温、最大・最低気温)
  2. 雨量(年間雨量、最大・最低雨量)
    • ※積雪による施設の破損等を考慮
    • ※降雨による落石の頻度を考慮
イ) 物理的摩擦作用
  1. 落石(施設周辺転石や施設で停止した石礫径)
  2. 状態(防腐処理の劣化やコンクリート体のクラック等による変状)
    • ※施設の設置による落石抑止効果を考慮
    • ※壁面やネット部等の落石を受ける部位での腐食の進捗を考慮
    • ※主桁や支柱等の構造物の主な部材の変形や腐食の進捗を考慮
    • ※コンクリートと鋼材の境目や、ヒンジ箇所の変形や腐食を考慮
ウ) その他の劣化作用
  1. 塩害等(防腐処理の劣化状況)
    • ※塩害の影響を受けない箇所との対応年数の比較を考慮

※印:調査目的

2.調査の進め方について

今年度より、随時調査箇所を広げていく予定であるが、当年度においては治山施設のなかでも設置数が多い治山ダムについて調査を行った。以下に治山ダムの調査において留意した事項について説明します。

3.谷止工の経年劣化を調査するにあたり留意した事項について

3-1.自然環境(施工位置による特性)

谷止工構造物の設置されている地域の特性による、構造物の劣化を考慮するため調査構造物がどの様な環境下であるかを確認する。

  1. 臨海地区であるか(塩害の可能性)
  2. 寒冷地であるか(凍結融解による構造物の破損の可能性)
  3. 温泉地であるか(構造物構成材料の科学的浸食の可能性)
  4. 乾燥地であるか(中性化により鉄筋コンクリート中の鉄筋腐食の可能性)
  5. 湿潤地であるか(凍害、アルカリ骨材反応の可能性)

3-2.構造物の形状及び構成材料の変異

構造物の破損、破壊にいたるプロセスにおいては、転石や流木等の流出物が堤体に衝突することで破壊される①外的因子と、コンクリート等の構成材料の変質によるアルカリシリカ反応や白華現象または塩害によるコンクリートの中性化等、構成材料の変異によって破壊する②内的因子、また寒冷地のコンクリート等のように膨潤作用により破損が生じる③気象的因子に大別して調査し、以下の項目を確認した。


ア) 外的因子

  1. 放水路、放水路肩や水叩工等、流下物による衝撃力を受ける部位の形状やクラックの状態を確認

イ) 内的因子

  1. 堤体面において確認されるクラックの幅や形状、クラック箇所からの噴出するシリカゲル等の滲み具合等について三段 階に分けて調査した。
  2. 鉄筋コンクリート構造物においては、コンクリート内部の中性化や塩害による、錆色の滲み具合や鉄筋の膨張によるコ ンクリートの破損箇所について確認

ウ) 気象的因子

  1. 構造物の設置地域の気温や降水量を確認するとともに、凍結によるヒビや欠けが生じていないか確認
  2. 冬期・夏期等の気温差が大きい箇所における堤体の膨張・収縮作用による破壊を確認
  3. ※以上の事項に留意し、現地調査により収集したデータを【調査結果とりまとめ表(PDF)】へ整理する。

4.調査結果のとりまとめ

平成23年度は、治山ダムについて調査を行い、県内の12地区27基を調査した。調査対象とした施設は施工後8~37年と、幅広いデータの収集を行った。収集したデータについては施工後の年数に対するクラックの増加等をヒストグラム方式により、施工後の構造物の損傷具合を特定できるよう表形式にまとめたが、調査結果を求めるには圧倒的に件数が不足していたため、今回は年数とクラック箇所数の分布のみについてまとめている。

4-1)外的因子(転石等の外力による破壊)について

洪水等によって土石の流出が起こりやすいと思われる大面積の流域や急渓流において発生する頻度が高いと考え調査を行ったが、27基中で確認できたのは2箇所のみであった。なかでも放水路肩に転石が衝突したと思われる箇所では、亀裂が放射状に広がり、大きいクラックは水表から水表まで貫通していた。

また、水叩工設置箇所では揚圧で押し上げられた水叩が垂直壁の放水路より持ち上がっている箇所もあった。


4-2)内的因子(構成材料の変質による破壊)について

治山ダムの構成材料は、大方をコンクリート構造物が占めているため、コンクリートの劣化についての調査となった。調査を行った治山ダムの多くは強度的な問題はないであろう、小クラックが確認される固体が多かった。これらの亀裂からはアルカリシリカ反応でよく見られる乳白色のシリカゲルが滲み出している場合が多く見られた。ほか、今回は臨海地域の調査を行えなかったため塩害による中性化の現象については確認できなかった。


4-3)気象的因子(凍結による膨潤等による破壊)について

治山ダムの多くはコンクリート構造物であり、かつ流水にさらされているため、水分を含んだコンクリートが多い、そのため冬期など気温が氷点下となるような地域では膨潤による破壊が想定される。またコンクリート自体も気温によって膨張と収縮を繰り返しているため、鉛直打継目箇所などで設けている「かき込み」箇所等で亀裂が生じるのではないかと考え調査を行った。膨潤によるコンクリートの破壊が確認された箇所の殆どは、インクラ端部などの打継高さが低い箇所で発生していた。


4-4)治山ダムの浸食及び堆積状況について

治山ダムの浸食とは、ダムの安定に重要な基礎部の洗掘について確認をおこなったが、幸いにも該当するダム工は1基もなかった。次に堆積状況については、治山ダム4型を対とした調査を行った。治山ダムの形式ではダム上流の土砂を放水路の高さまで埋め戻す「5型」と放水路から控えて埋め戻す「4型」がある。上流に土砂を受けるためのポケットを持つ4型の治山ダムはポケット部分が土砂で満たされると土砂流出抑止機能が低下するため、この機能を継続するには定期的な土砂の除去が必要となる。そのため4型の治山ダムがどのような条件下で満砂状態となるかについて、経過年数や流域面積といった因子を基準とし表へまとめたが、4型ダム工14基中、満砂状態となっていた件数が3基と少なく、これについても結果の特定には至っていない。

〔渓床勾配を基準とした場合〕



〔流域面積を基準とした場合〕



〔経過年数を基準とした場合〕


以上、外的因子や内的因子又はダム工上流への土石の流出状況について、とりまとめを行ったが、治山ダムの経年劣化における要因の特定を行うには、更に多くの調査データが必要であるため、次年度以降も継続的な調査を進め、様々な施工地における多くのデータに基づき、治山ダムの機能低下の要因となる条件の特定を目指します。