山地災害の予防と対策について
はじめに
「災害は忘れた頃にやってくる」などと昔は言いましたが、近頃はニュースや新聞紙面において、地震や大型台風の上陸、局地的な集中豪雨等といった自然災害に関する情報を目にすることが多くなり、忘れる暇がないような状況です。
なかでも豪雨に関する災害は、地球環境の変化の影響からか、年々その規模が拡大する傾向にあり地震災害と同様に、多くの尊い人命が失われる事態となるケースも少なくありません。
このページでは、自然災害のなかでも比較的身近で起こりやすい「山地災害」とはどのようなものか?どのような状況で発生するのか?など、山地災害についての情報をできるだけ多くの方々に知っていただくとともに、防災に対する関心を深めていただけるよう判りやすく解説させていただきましたので是非ご一読ください。
1.なぜ「山地災害」は起きるのでしょう?
日本では、全国で毎年約2,000箇所もの山地災害が発生し、多くの被害をもたらしています。では、なぜこれほど多くの山地災害が発生するのでしょうか?それは日本の地形・気候といった自然環境によるところが大きく影響しているのです。
災害の起こりやすい地形(場所)とは?
日本は国土の約7割を山地が占めていています。そのため都市近郊の宅地・商業地等は山地に隣接しているか、もしくは山地を切り開いて作っているところがたくさんあります。農村においては平地は水田や耕作地として利用されているため、人家は山地沿に並んでいるところが多く見られます。このように山地斜面に隣接している私たちの生活圏は、緩衝区域(ブァファーゾーン)が確保できていない場合が多く、山くずれや土石流等といった山地災害が発生した場合、じかに影響を受けてしまいます。
災害の起こりやすい気象とは?
日本は国土の約7割を森林が占めており、先進国の中では有数の森林大国です。これらの森林は豊かできれいな水を私たちに与えてくれますが、この水資源を供給している源は、世界平均の約2倍ともいわれる雨水です。日本の年間降水量は約1700mmあり、きわめて雨の多い国ですが山地が多いため、梅雨や台風などによりもたらされた雨水は、山地の急流を一気に流れ出ます。
山間の急な渓流に大量の雨水が流れると、川底や川岸の土砂をえぐりながら流出するため、石礫を含んだ破壊力のある土石流が発生しやくなります。また、山地斜面では森林の貯水能力を超えた雨水が地面にしみこむことによって山くずれが起こります。
今後の気象について
地球温暖化の影響ともいわれている異常気象が世界中で起こっています。日本においても局地的な集中豪雨が発生しやすくなり甚大な被害が予想されています。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書には、今後強い降雨現象が頻度を増す可能性が非常に高く、洪水リスクを増加させるといった報告が載っています。
以上、私たちを取り巻く状況をかいつまんで説明しましたが、いかに私たちが山地災害の危険と隣り合わせに暮らしているのかをよく認識しておかなくてはなりません。
「敵を知り己を知れば....」という言葉があるように、周辺の地形や地質を知ってどのような時に危険であるかを理解していれば、緊急の事態に対する準備を整えることができ、余裕をもって対処することができるのではないかと思います。
2.山地災害が起こりやすいところとは?
山地災害は周囲に山や渓流があればどこで発生するかわかりません。しかし過去の災害の記録や現在の山地の状態から、災害の危険性をある程度予想できるのではないでしょうか?このページでは「山くずれ」や「土石流」、「地すべり」等がどのようなところで発生しやすいのかについて説明します。
山くずれが起きやすいところって?
山くずれとは、雨水が地中にしみ込んだり、地震などにより山の斜面が突然くずれおちる現象です。
- ・傾斜がきつく崩れやすい斜面
- ・過去に山くずれが起こったことがある斜面
- ・ときどき落石がある。
- ・岩石がもろく崩れやすい。
- ・斜面の形がでこぼこで、くぼみから土砂がでている。
- ・斜面の数カ所から水がにじみ出ている。
土石流が起こりやすいところって?
土石流とは大雨によって水と一緒に山の斜面や谷の土砂、石などが一気に下流へ押し流される現象です。
- ・渓流や流域内の斜面が急である。
- ・渓流の川底に石や、たくさんの土砂がたまっている。
- ・上流の山地斜面に山くずれなどが発生している。
- ・過去に土石流が発生したところ
地すべりが起こりやすいところって?
地すべりとは地下水などの影響により、山の斜面がゆっくり下方へ移動する現象です。
- ・湧き水や地下水が豊富なところ
- ・周りの地形にくらべ、突き出したような地形のところ
- ・もろく崩れやすい岩盤や岩石があるところ
- ・過去に地すべりがあったところ
山地の地形や地質、湧水の状況から山地災害の危険性が高いと思われる箇所が人家の近くにある場合、治山事業等によって対処してもらえることがあります。詳しくは市町村の担当課へ問い合わせてください。
3.山地災害が起こりそうな前兆とは?
最近では一定量以上の雨が降った場合等、災害発生を事前に予想した防災マニュアルなどが整備されていて、警戒警報や避難勧告が迅速に行われているため人命が失われる事態はかなり少なくなってきています。しかし、山地災害ではしばしば雨がやんでしばらくたってから発生したり、梅雨期のように少量の雨が何日も降りつづくことによって発生する場合があります。このように雨量で危険性が判断できないケースでは、周辺の山地や渓流の異変から、あるていど危険性を察知する方法がいくつかありますので、避難するべきかどうか迷うような場合の目安にしてください。
山くずれが起こりそうな斜面からの危険信号
- ・斜面からのわき水の量が急に増えた。
- ・ふだん流れているわき水がとまった。
- ・山の斜面からの石がころがり落ちてきた。
- ・斜面に地割れ(クラック)のような亀裂が発生した。
- ・地割れにより山の木が何本も傾いたりしている。
土石流が起こりそうな渓流からの危険信号
- ・土砂をたくさん含んだ泥水や流木が流れてきた。
- ・雨の降った量に対し渓流を流れる水の量が極端に少ないときまたは少なくなったとき。
地すべりが起こりそうなときの危険信号
- ・ふだん澄んでいる沢や井戸水がにごってきた。
- ・地鳴りのような音が聞こえてきた。
以上、災害の危険信号と思われる兆候をいくつか紹介しましたが、緊急時においては市町村の防災連絡や気象情報などをこまめに確認し、危険を感じたら早めに指定された場所へ避難しましょう。もし、災害が起こった場合はすぐに110番か119番に通報しましょう。